Illustratorでアートボード (キャンバス) の背景色を変更する方法を紹介します。
もともと、Illustratorのキャンバスには背景色という概念はなく、背景無しの状態がデフォルトです。Illustratorでは背景なしの場合白のカラーで表示するため、アートボードの背景色が白に見えます。
そのため、背景色を変更して画面を表示したい場合は希望する背景色を設定した図形を配置して対応します。
Illustratorを起動します。起動後、新規ファイル作成でドキュメント(アートボード)を作成します。
[長方形ツール]をクリックして選択しキャンバス上をドラッグして長方形を描画します。
描画した長方形をクリックして選択し、内部の塗りの色を変更します。今回は黒色に設定します。
長方形の頂点と辺の中間に表示されている白い四角形のマーク(ハンドル)をドラッグして描画した長方形のサイズを変更します。キャンバスの大きさと同じサイズに長方形をリサイズします。
黒く塗りつぶした長方形をキャンバスと同じサイズにすることで、背景のカラーを変更できました。
白い図形が目立てばよく、背景色を細かく設定する必要がない場合は、透明グリッドを使用する方法もあります。
Illustratorを起動します。起動後、新規ファイル作成でドキュメントを作成します。
[表示]メニューの[透明グリッドを表示]の項目をクリックします。
透明グリッドが表示され、背景が白と灰色の格子模様になりました。
透明グリッドの色を変更すると、暗い色に変えることもできます。透明グリッドの色変更についてはこちらの記事を参照してください。
用意されたパターンの中から使用したい色や格子模様のサイズを設定できます。
また、カスタムカラーを設定することで、グリッドのカラーの色の変更もできます。
色変更についてはこちらの記事を参照してください。
以上で背景色の変更は完了です。
朝いちばんのスタジオは、夜明けの薄明かりとモニターの冷たい白が溶け合う静けさに包まれていた。
新人デザイナーの結衣は、真っ白に光るIllustratorのアートボードを見つめてまぶたを細める。
「眩しすぎて色が見えない……」
思わず漏れたつぶやきが、後ろから迫った足音に吸い込まれた。
「白紙がつらいって? なら紙の色を変えればいい」
柔らかな声とともに現れたのは、ベテランアートディレクターの室井だ。ゆるく巻いた髪にコーヒーの香りをまとわせ、結衣の肩越しにディスプレイを覗き込む。
「アートボードの背景色って変えられるんですか?」
「もちろん。レイヤーに長方形を敷いたり塗り重ねたりもできるが、今日は正攻法でいこう」
室井は結衣のマウスを指で挟むように導き、メニューの〈ファイル〉ではなく〈Illustratorのロゴ〉を押させる。
「ほら、ここから『ドキュメント設定』を開く。ウインドウの中ほどに『シミュレーション用の用紙カラー』があるだろう? そこをクリック」
パレットが開くと、結衣は思案顔でカーソルを彷徨わせた。鮮やかな色は目に鋭すぎる。彼女が選んだのは、朝霧のようにわずかに青みを帯びた灰色だった。
「いい選択だ。目の負担が減るし、白背景じゃ埋もれる淡彩も浮かび上がる」
「本当にこれだけでいいんですか?」
「必要なら透明グリッドも色を合わせるといい。あとは『プレビュー』を忘れずに。ほら、画面の眩しさが消えたろう?」
モニターは一転して柔らかなグレイを湛え、結衣のラインアートが紙上に浮かぶように際立った。彼女は思わず息をのんだ。
「……たったこれだけで世界が変わったみたい」
「デザイナーの目は命だ。まずは自分を守れ」
室井はそう言って背筋を伸ばすと、振り返りざまに小さく指を鳴らした。
「ただし、背景色を変えても印刷には出ない。念のため覚えとけよ」
「えっ……それじゃクライアントに提出するPDFは……?」
「真っ白さ。それが紙の掟さ」
結衣は口を開けかけて、ぱちぱち瞬きをした。
「じゃあ、私がさっき色合わせしたバナー、背景が活きると思ってたのに……」
「活きるさ」室井が笑う。「君が錯覚を解くために配色バランスを整えた結果が残る。背景色は幽霊みたいなもの、完成した瞬間に成仏して消える。けど、いた痕跡は確かに作品に宿る」
結衣は苦笑しながら納得した。
その日の夕方、社内プレゼンの席。モニターに映し出された新バナーを見て、部長がぽつりと漏らした。
「おや、紙は白いのに妙に目に優しいな」
室井が席の後ろで肩をすくめる。その横で結衣はそっと胸を張った。
――背景色の幽霊は、まだそこに居座っていたらしい。