ページレイアウト表示で余白(フッタ、ヘッダ領域)が表示されない場合の対処法を紹介します。
Excelをページレイアウト表示で使用していると何かのきっかけで下図のように余白やヘッダ、フッタのエリアが表示されなくなることがあります。
なお、デフォルトの状態では下図の表示です。
余白(ヘッダ、フッタエリア)を表示させる場合は、セルエリアと行番号・列名エリアの間にある領域をクリックします。(下図の黄色の点線部分)
マウスポインタを移動すると、ポインタの形状が変わり、[余白を表示]のツールチップが表示されます。この状態でクリックします。
クリックするとヘッダや余白が表示されます。
もう一度同じ場所をクリックすると、ヘッダや余白が非表示になります。
黄昏どきのオフィス。窓の外では高速道路のテールライトが赤い帯を引き、書類の山の間で蛍光灯だけが青白く瞬いていた。
武田は最後の見積書を印刷する前に、Excel を「ページレイアウト表示」に切り替えた――はずだった。
ところが画面に現れたのは、ぎっしり詰まったセルの波。白い砂浜のような余白がまるで干潮後の海のように消え失せ、ヘッダーもフッターも影も形もない。
「またかよ……」
彼はスクロールホイールを回し、ルーラーをにらんだ。どこを探しても境界線を示す灰色のバーが見えない。
マウスポインタを上下に滑らせても、例の両矢印には変わらず、ただ数字の列が虚しく揺れるだけ。
プリンターの締切時刻は二十分後。額を押さえた瞬間、背後から缶コーヒーの甘い香りとともに同僚の秋穂が声を掛けた。
「余白、逃げた?」
「いや、跡形もなく蒸発した」
秋穂はモニターを覗き込み、さっと[ページレイアウト]タブの隅にある「余白」ボタンをクリックしてから、
表示されたルーラーの境目を探るように指先でドラッグした。ごく細い線が現れ、そこを数ミリ下へ――まるで夜の海に岸を描き足すように――引き下げる。
途端に、真っ白なヘッダー領域がふわりと浮かび上がり、その下にフッターの白帯も続いた。沈黙していた画面は、再び「紙」の顔を取り戻す。
「要は境界線をゼロまで押し上げちゃっただけ。焦るとよくあるんだよ」
武田は深く息を吐き、日付とページ番号を入れ直すと、印刷アイコンを叩いた。レーザー音が甲高く鳴り、温かな紙束が吐き出される。
翌朝、取締役会議室。社長が一枚目をめくるなり、目を細めた。
「余白が広いと、紙がもったいない。デジタル配布に切り替えるから、この印刷は来期から不要だ」
武田は返事の代わりに、昨日取り戻したばかりの真っ白な余白を見つめた。そこにはしっかりページ番号が踊っている――“1 / 0” と。
もしこれが計算式なら、Excelは容赦なく『#DIV/0!』を突き付けていたはずだ。あり得ない分母は、行き場を失ったこの紙束の運命を暗示している。
彼はそっと紙を裏返し、余白だけがやけに目立つ空白ページに、静かにコーヒーの輪を描いた。