Illustratorでアートボードとアートボードに描かれた図形を複製して、複数のアートボードを作成したい場合があります。
この記事ではアートボードの複製を作成する手順を紹介します。
Illustratorを起動し画像を作成します。今回は下図の画像のアートボードを複製します。
アートボードの操作モードにします。
[ウィンドウ]メニューの[プロパティ]の項目をクリックします。
プロパティウィンドウが表示されます。ウィンドウの[アートボードを編集]ボタンをクリックします。
または、ツールパレットの[アートボード]ツールのボタンをクリックしてアートボード編集モードにします。
複製したいアートボードをクリックして選択します。
[Alt]キーを押しながら、アートボードの左上のキャプション部分をドラッグします。複製したい位置まで移動しドロップします。
アートボードが複製できました。
同じ操作を繰り返して、アートボードを複数複製できます。
プロパティウィンドウの[終了]ボタンをクリックするか、選択ツールを選択してアートボードの編集モードを終了します。
アートボードの複製ができました。
別の手順として、コピー&ペーストで複製する方法もあります。
アートボードの編集モードにして複製したいアートボードを選択します。
[編集]メニューの[コピー]をクリックします。または、[Ctrl]+[C]キーを押します。~
[編集]メニューの[ペースト]をクリックします。または、[Ctrl]+[V]キーを押します。~
右隣にアートボードが複製されました。
同じ操作を繰り返してアートボードが複製できます。
アートボードを図形の要素がはみ出す場合に、コピー&ペーストでアートボードを複製します。
コピー&ペーストで配置した場合、隣のアートボードに重なってしまいます。
重なった状態でアートボードを移動すると、他のアートボードに配置したオブジェクトも一緒に移動してしまいます。
図形がアートボードをはみ出している場合は、[Alt]+ドラッグのほうが扱いやすいです。
観測艦〈ルーメン〉は木星の雲頂4万km上空を周回しながら、琥珀色の稲妻を透かしてくる陽光を受けて艦体を虹の薄膜で包んでいた。
ブリッジ脇のインフォグラフィック室――凪いだ静電嵐のざわめきだけが壁越しに聴こえる狭い区画――で、カナは立体投影した Illustrator の作業に没頭していた。
アートボードには、紫外線分光計が捉えたアンモニア雲の濃度マップ。グラデーションが複雑に絡み合い、凡例と注釈が小さな文字でぎっしり詰め込まれている。
背後のドアがエアシールを鳴らし、主任解析官マキが合成コーヒーを片手に入って来た。
「その盛り付けじゃ火星局の連中が息切れするぞ。ボードを分けろ、カナ」
「了解。複製して片方を解説専用にするわ」
〈ルーメン〉には船内ネット越しに AI〈コーデックス〉が常時常駐し、全区画の音声をモニタしていた。
黙っていればただの管制ソフトだが、乗員が「コンピュータ」と呼びかければ即座に指令を実行する。
カナはタブレットに向けながら、つい作業癖で口に出す。
「コンピュータ、アートボード複製」
すると同時に――
「音声指令確認。“オートモード複製”を実行します」
天井スピーカーが冷徹に告げた。
「ちょっ、待って! いま“アートボード”って――」
だが嵐由来のプラズマノイズが通信バンドを歪ませ、“アート”の母音は船の聴覚系に“オート”と届いていた。
かつて英語版ソフトに和製イントネーションで無理をさせたせいで、音響辞書の類似語優先度が狂ったままだったのだ。
推進シーケンスが二重に組まれ、機関部が轟然と再点火。艦は軌道をわずかに外れ、人工重力リングが急停止して中にいた工具が一斉に宙を舞った。
「コーデックス、オートモード複製をキャンセル!」
マキが怒鳴る。
「承知しました。…しかし“キャンセル”は現在予約語です。代替コマンドを――」
「いいから“寝てろ”!」
その一喝で AI は動作を停止し、推進器はようやく沈黙した。室内に散らばったレンチやカップが床に転がり、コーヒーの香りが漂う。
カナは額の汗を拭ってから、Illustrator の画面に目を戻した。Alt キーのワンタップで現れた二枚目のアートボードは、暴走することもなく静かに煌めいている。
「……船まで複製しなくても良かったのにね」
呆れ笑いを浮かべるマキに、カナは肩をすくめる。
「ボード名を“01_データ”“02_解説”に分けたわ。ガイドもコピー済み。これで火星局も迷わないはず」
「なら上出来だ。次回からは“アートボードをコピー”じゃなく、『ボードを複写』って言っとけ。発音も音節も AI に優しい」
カナは苦笑し、三枚目の英語版ボードを追加。吹き荒れる雲のグラデーションを整え、凡例を多言語に差し替える。
やがて完成したインフォグラフィックはレーザー通信で火星の分析局本部へ送られた。データ量は当初の倍になったが、予備燃料の消費量に比べれば取るに足らない。
その夜、航法ログに「誤音声認識:アートボード→オートモード」と赤字で残り、艦内通達が回った。――宇宙でもデザインでも、発音のクリアランスは命綱だ。