Excelの折れ線グラフでセルが空の値を飛ばしてグラフの線をつないで描画する設定手順を紹介します。
デフォルトの動作を確認します。下図の表を準備します。
日付 | 値 |
2018/8/1 | 3 |
2018/8/2 | 8 |
2018/8/3 | |
2018/8/4 | 12 |
2018/8/5 | |
2018/8/6 | |
2018/8/7 | 20 |
2018/8/8 | 22 |
2018/8/9 | |
2018/8/10 | 30 |
表を選択してグラフを作成します。表を範囲選択し[挿入]タブの[グラフ]セクションの中から [折れ線/面グラフの挿入]ボタンをクリックします。ドロップダウンウィンドウが表示されますので[折れ線]グラフを選択してグラフを挿入します。
折れ線グラフが挿入できました。デフォルトでは隣接するセルに数値が設定されている部分のみに線が描画され、セルが空の個所は線が描画されない動作になっています。
利用用途によっては、セルの値が入っていない場所は飛ばして1本の折れ線を描画したい場合があります。以下の手順で空のセルをスキップして折れ線グラフを描画する手順を紹介します。
設定を変更するグラフをクリックして選択します。ツールリボンの[デザイン]タブをクリックし、[データの選択]ボタンをクリックします。
[データ ソースの選択]ダイアログが表示されます。ウィンドウ左下の[非表示および空白のセル]のボタンをクリックします。
下図の[非表示および空白のセルの設定]ダイアログが表示されます。[空白セルの表示方法]のラジオボタンがデフォルトでは[空白]にチェックがついています。これを[データ要素を線で結ぶ]のラジオボタンをクリックしてチェックを付けます。この設定により空白のセルを飛ばして折れ線グラフの線を描画する設定になります。設定ができたら[OK]ボタンをクリックしてダイアログを閉じます。
[データ ソースの選択]ダイアログに戻ります。[OK]ボタンをクリックしてダイアログを閉じます。
グラフの表示が変化し、空のセルを飛ばして折れ線グラフの線が描画されていることが確認できます。
天気は澄み切った初夏の朝だった。南棟四階の化学実験室には、朝陽がガラス器具の列を透過して虹の粒を散らしている。
白衣姿の川瀬真白は、窓辺のノートPCを開いたまま頬杖をつき、風でそよぐ前髪越しに画面を凝視していた。
次週に迫った理科研究発表会。彼女のテーマは「校庭の気温と開花時期の相関」。
三年間、毎朝欠かさず測った温度と咲き始めた花の数――だが、雨で測定できなかった数日がぽっかり空白として残っている。
それが折れ線グラフ上で線をぷつりと切ってしまい、せっかくの傾向が台無しだった。
初めてその切れ目を見つけたとき、真白の胸にも同じく小さな断絶が走った。
というのも、データ整理を手伝うと言ってくれたのは、隣のクラスの天文部員・佐伯光希。
ノートPC越しに並ぶ肩が触れそうで触れない、あの距離感をどうにかしたい――そんな淡い願いも、途切れた線と一緒に空中で凍りついてしまったかのようだった。
昼休み、真白は意を決し購買前で光希を呼び止めた。
「ねえ、Excelで折れ線グラフ描くとき、空欄を飛ばして線をつなぐ方法って、知ってる?」
『点線に変えて補間とか?』
「それじゃなくて、データをそのままにして線だけ途切れさせないやつ」
光希はパンの袋を片手に首をかしげ、そして微笑んだ。『放課後、実験室で試してみようか』
夕方。オレンジ色の斜光が机のステンレスに細長い影を落としている。二人は肩を寄せ合い、同じディスプレイを覗き込んだ。
「ほら、ここ。[データの選択]で系列を選んで、右クリックして[データ系列の書式設定]って出す。そこで[空白セルを表示しないで線を接続する]を選ぶんだって」
マウスを握る真白の指が震え、クリック音がやけに大きく響いた。ダイアログを閉じると、先ほどまで途切れていた折れ線が滑らかな曲線を描き、
春から初夏へ、高く伸びる気温と花数の相関を一筆書きのように結びつけた。
『すごい、見事につながったな』
光希の声は驚きよりも柔らかな称賛で満ちていて、真白の鼓動はデータポイントより細かく刻み始める。
しかし次の瞬間、画面右下で警告のポップアップが弾けた。
【リンクされたデータが更新されています。保存しますか?】
うっかり Enter キーを押した真白の手。保存は走り、元の生データファイルまで自動で上書きされた。
一年前のバックアップにだけ残っていたミスった数値まで巻き戻り――開花数が二桁跳ね上がった。
真白は顔面蒼白。折れ線はつながったが、データの信頼性という大黒柱が崩壊しかけたのだ。
彼女の目から励ましの言葉が逃げ出した瞬間、光希が静かに口を開いた。
『……仮説と実測値の乖離を検証する、って構成に変えてみる? 花が多すぎる異常値は、逆に面白い切り口になる』
「え?」
『ほら、同じグラフをコピーして、実測とシミュレーションの二本を重ねる。異常点を赤で強調すれば、空欄より見映えも議論も深くなる』
彼の冷静な提案で、真白の頭に新しい展開が電流のように走った。
偶然の上書き事故を、研究のエピソードに昇華させてしまう発想――理系のロマンは、失敗の傷口にだって咲くのだ。
翌週の発表当日。スクリーンに映る二重の折れ線は波のように寄せ合い離れ合い、赤い異常点がアクセントになった。
質疑応答で理由を訊かれた真白は、舞台袖で見守る光希と目を合わせた。
「データの空白を無理につなげず、むしろ“つながり過ぎた”結果を分析しました。失敗は単なるエラーではなく、新たな仮説への跳躍台です」
拍手の中、審査員のひとりが最後に尋ねた。『その発想のきっかけは?』
真白はマイクを握り直し、白いスニーカーのつま先を内側に寄せた。
「隣のデータ分析担当です。……彼が、空白も飛び越えられるって教えてくれました」
会場が湧き、光希は照れ隠しにメガネを上げた。
――二人が帰り道の河川敷で並んで歩く夕暮れ。真白がそっと切り出した。
「空欄を飛ばして線をつなぐ方法、もうひとつ試したいんだけど」
『どんな方法?』
「私と君の間の“空欄の日々”を、今日で全部つなぐ」
次の瞬間、真白の言葉を頂点に、二人の影は一点で重なった。
グラフの線が途切れずに結ばれたように、寄り添うシルエットも滑らかに一続きになった――まるで、夕陽色の座標軸に描かれる新しい相関曲線の始点のように。
上書き事故がなければ、彼女の思いも「空欄」のままだったろう。
失敗がつないだ折れ線は、恋の本線までも接続していた――Excelがくれた最小の距離は、実は心と心の最短経路だった。