イラストやデザインの単価計算の方法を紹介します。
今回紹介する計算方法は、単価が慣習的に決まっている業界ではない(イラストレーターを買い叩かない)場合の計算方法です。
出版社やゲーム会社でない、一般的な企業からの発注を想定しています。またこの計算式はデザイン以外の用途(プログラム作成、BGM作成、シナリオ作成、営業活動など)でもほぼ変わりません。
まず、1人月の費用を見積もります。金額の上下はありますが以下を目安にします。1人月は20人日とみなします。1人日は8人時間とします。
イラストが描けるという時点で、誰でもできない作業ですので、専門業務の単金とみなしてよいです。
色指定された色で所定のパーツに色を塗っていくような手順と数時間の訓練があればできる作業がオペレーターの作業になります。
注意すべきは、知名度がある程度高くても高度なスキルとはみなされません。1枚当たりの作成時間が短い人のほうが高いスキルを持っていると判断されます。
ただし、世界的に有名、誰でも知っている有名クリエイターならば高度なスキルとみなされます。
(一人ですべて(デザイン~下書き~塗り)を仕上げるスキルのあるイラスト描きでしたら月単金を1,000千円程度にしてもよいかもしれません。)
版権つきの案件や超有名クリエイターなどを使う場合は、代理店や制作委員会が間に入るので全く違った価格になってきます。
代理店マージンや各種管理費、著作権利用率などが加算されたります。が、その場合は専門の営業が交渉に入りますのでクリエイターがお金のことを考える必要はない、
または価格交渉は慣れているかと思われます。
発注する作業がどの程度かかるかを発注側で予測します。
カラーポスター1点 + カット10点と想定するとカラーポスターに2~3日、カットは0.5日(1枚4時間)と仮定し、8人日程度とします。
数か月~1年の長期の契約の場合、先方へ安定的に支払いをするため割引を想定します。(-10%など)。逆に1回限りのスポット契約の場合は割り増しを想定します。(+10%~50%など)
イラストの作成者の名前を出すか、出さないかを決めます。ある程度有名なクリエイターならばプロモーション効果も狙えるため、名前も出す場合もあります。名前を出す場合はプロモーションになるため価格交渉の材料になります(発注側とクリエイターのネームバリューの力関係によって変わります。)。デザイン関係では伏せてしまうことが多いです。昨今流行のソーシャルゲームでも伏せているケースが多いように見受けられます。
発注側としては、大きな金額の違いにはならないため金額を上乗せしてすべて買い上げてしまったほうが、後々の権利関係等で楽という面もあります。(権利を両者で持つと、ヒットした際にとても面倒です。)
以上の材料をもとに計算します。
この金額を見つつ総合的に判断して予算を設定します。多くの人の目に触れ、力を入れる案件ならば上限に近い金額に、ちょっとした企画ものならば下限に近い金額に設定します。
たいていは下限~中ほどの金額になります。今回は400千円を上限予算としました。
(上限に近い金額は大規模案件となり、各種プロモーションと組み合わせたパッケージ+有名クリエイターへの発注となるケースが多いため、
この計算式に当てはまりません。そのため、上限に近い金額になるケースは少ないです。)
ここまで計算を終えたうえで、発注側は何も知らない体で案件の概要の説明と「ポスター1点 + カット10点」で見積り依頼を出します。
見積りが来たら予算と比較します。見積りが200千円で回答があると「安い!」となり、そのまま発注になります。
予算オーバーになった場合は、見積りの内訳を確認して、ポスターのサイズを小さくする、カットの点数を減らすなどの対応で予算内に納めます。
発注側が強い立場の場合はジャストプライスで400千円でどこまでできますか?と交渉する場合もあります。
たいていの場合、クリエイターを決めてから見積もり依頼を出しているため、複数のクリエイターに見積りを出して相見積を取ることは稀です。
クリエイター側は案件の説明を受けた際に、どの程度の作業がかかるかを見積もる必要があります。
ここは、案件の内容や手間のかかり具合やクリエイター本人の遅筆具合によって変わる部分です。
作業時間に単価をかけたものを、見積もり金額とします。
事実である必要はないと思います。利用はほどほどに
頑張って良い条件で受注してください。
出版社でない一般企業が、ライトノベルと同じだけのイラストの発注でいくらになるか計算してみます。
合計 7.5~9.5人日
⇒320~475千円
ライトノベルの場合は作家の名前を出すため、先方にもプロモーション効果があると踏まえて、予算は300千円(あるいは350千円)にしよう。
と決めます。(出版社でない企業の発注の場合、作家のネームバリューで金額が変わることはほとんどありません。)
上記の場合、リテイクを出す可能性やスポット契約であることを考慮して予算を400千円とする可能性も十分あります。
(ゲーム会社でない)一般企業でゲームの素材を発注する場合を計算してみます。キャラクターデザインとキャラクターのイラスト5人分、ゲームの立ち絵5キャラクター×10パターン、ポスター1枚の発注です。
3人日
5キャラクター×10パターン=50枚
0.25日×50枚=12.5人日 (←全身が変わるパターンを想定)
1+5+2.5+3+12.5 = 24人日 ⇒ 1.25人月
⇒1,062~1,250千円(+デザイン料)で予算を立てる。(スポット契約なのでデザイン料込で、1,500千円にしてしまうかもしれません。)
となります。先方のプロモーションになりそうな場合は、クリエイターの名前を出す条件で若干強気に割引交渉をします。(価格はそのままでポスターを2枚にするなど。)
規模の小さい企画で使うポスターの発注を想定します。(10,000~50,000枚くらい印刷)
→425~500千円
スポット契約ならば700千円くらいで予算を置く可能性があります。
3万円のイラストの場合、何時間で仕上げればよいかを逆算します。
→ 4.8~5.6時間
3万円のイラストを受注した場合、構想~仕上げまで含めて6時間以内に完成させれば適正価格になります。
半日作業といったところです。
感覚的には、だいたいあっている印象です。ちょっと高い感じはしますが、1回限りのスポットであれば、まあまあ妥当という印象です。
逆に毎月発注する案件だとすると、ちょっと高い印象です。(間接発注で中間マージン込みであれば妥当かという気もします。)
有名デザイナーへの発注でない場合は、発注者は素材の作成に要する時間で計算していることが多いです。
素材や原稿作成に要する時間から逆算して価格を求めることもできますので、価格設定に困った場合には参考になるかもしれません。
ちなみに、ある程度の規模の大きい企業では、デザイナーの一本釣り直発注は極めてまれです。(相手が企業でないと支払い手続きが非常に面倒なためです。)
多くはデザイン事務所や広告代理店を経由して委託します。
そのため、デザイン事務所やデザイン関係の広告代理店とつながりがあると案件が受けやすいです。
案件を安定的に受注する観点から、デザイン事務所に入社してスキルを身につけて、その後、独立するというのは良い方法だと思います。