Excelで2つの日付の差分を計算する手順を紹介します。
セルに入力されている、2つの日付の差分を計算する場合は、それぞれのセルの引き算で計算できます。
=(日付の値のセル1)-(日付の値のセル2)
または、
=(日付の値1)-(日付の値2)
別の方法で DATEDIF
関数を利用する方法もあります。
下図の表を準備します。
開始日 | 終了日 |
---|---|
2024/5/21 | 2024/6/26 |
2024/3/11 | 2024/3/21 |
2023/11/24 | 2024/1/9 |
2023/9/15 | 2023/11/16 |
2023/7/3 | 2023/11/20 |
2022/12/1 | 2023/3/9 |
2022/9/13 | 2023/3/9 |
2022/1/5 | 2023/5/12 |
D3セルに次の数式を入力します。
=C3-B3
数式を確定します。差の日数が表示されます。
D3セルをコピーして、他の行にペーストします。
それぞれの行のB列とC列との日付の差の日数がセルに表示されます。
2つの日付の差分を計算できました。
夜明け前の水族館。展示フロアの照明は落ち、巨大なアクリル越しにクラゲだけが淡い光を放っていた。
館内にいるのは、深夜シフトの飼育員・早瀬と、バックヤードのデスクに鎮座する一台の古いノートパソコン
――そして、ごく控えめに自己主張する Excel だった。
早瀬は水槽の前で腕組みをし、ガラスに映る自分に呟く。
「あと何日で孵化予定日だっけ?」
答えはパソコンの中にあった。孵化予定日は四か月前に決め打ちで入力したまま。そのころ、早瀬は〝締切〟という概念を鯉の餌やりと同じくらい軽視していた。
水槽の底でふわりと揺れるクラゲの卵嚢(らんのう)を見届けると、早瀬は事務所へ戻り、錆びた椅子に滑り込んだ。
Excel シートには「開始日」「終了日」という列名だけがそっけなく並ぶ。
開始日セルには〈2025/02/14〉とある。バレンタインの記憶がうっすら甘く蘇る。終了日は、今この瞬間のシステム日付。
とりあえずセル C2 に式を入れる。
=DATEDIF(A2,B2,"d")
Enter を押すと、セルはぴたりと「111」と表示した。
「百十一日も過ぎてる! 孵化実験は失敗だ…」
早瀬はがっくりと肩を落とし、缶コーヒーを開けた。背後の廊下から、下足音が近づいてくる気配がした。
現れたのは経理担当の荻野――水族館で唯一、海の生き物より数字に詳しい男。夜中でも眼鏡のレンズはぎらりと光る。
「早瀬さん、例の孵化実験の報告書できてます?」
早瀬は画面をそっと隠しながら笑った。
「いや、それが、孵化には失敗してしまいまして。百十一日もすでに経過していました。」
荻野は覗き込み、眉をひそめる。
「これ、セル、逆じゃないですか?」
――逆?
荻野がパパッとキーボードを叩き、開始日と終了日を入れ替えて同じ式を入れる。
=DATEDIF(B2,A2,"d")|
セル C3 が「31」を示した。
「負の日数ではないってことは、まだ孵化の予定日は来ていません。予定日は七月五日。今日が六月四日だから、あと三十一日残ってる」
早瀬は目を瞬き、計算結果を追う。一か月の猶予。
「……マジか。ずっと遅れてると思って、昨日上司に『孵化は失敗しました』ってメール送っちゃいましたよ」
荻野はため息をつき、水槽ホールを見やった。青い闇に、クラゲが静かに回遊している。
翌朝。館長室では上司がメールを開き眉を吊り上げていた。
『孵化実験は失敗でした。当初の孵化予定日より111日経過しても孵化しておりません。本当にすみません』
そこへ軽やかな着信音。続く追伸。
『すみません、Excel の列を逆にしてました。まだ、失敗ではないです! 孵化予定日まであと1か月あります!』
「どっちなんだ……」と館長が呻いたその瞬間、事務室の壁際で、ガラスが割れる高い音──パリンッ。
産卵タンクの継ぎ目が裂け、白濁した海水が一気にあふれ出した。タイル床を薄い水膜が走り、館長の革靴をかすめてバシャリと跳ねる。
そこに、半透明の傘――直径一メートルはあろうか――がゆるく拍動しながら滑り出てきた。
水面に浮かび、蛍光灯の残光を受けて青白く光る巨大クラゲ。
「……孵化、完了……?」
館長の呟きは、足元を漂う海の精に吸い込まれるように掻き消えた。
差分計算を一つ間違えただけで、孵化予定日は延びたが、クラゲはフライングで生まれてしまった。
皮肉にも、いちばん正確だったのはクラゲ自身の腹時計だった。